2004年に弊社で新築工事をさせていただいたお客様のお宅での外装塗替え工事を行っています。
その打合せで今年の1月にお伺いすると、建物周辺に気になるものが埋まっていました。
塩ビ製の直径22cm程度の物が、建物に周りに1.2~2m間隔に設置してあります。
これは、害虫駆除業者が設置をしていくベイトシステムというものです。
お話をお伺いすると、それ以前に他に導入したお客様と契約内容が違う事が気になり調べてみました。
それ以前、お話をお伺いしたお客様は建物周囲に塩ビの円筒系のボックスを設置し、駆除会社の人間が定期的に点検に訪れシロアリの存在を確認したら必要な対応を行い、費用は毎月発生しリース契約だったと記憶しています。
今回のお客様のケースは、設置工事費用のみでその後の定期的な点検については無いそうです。
お客様自身が定期的にボックス内部を点検して、被害に遭っていたら他の場所の駆除薬と入れ替えるというような事をおっしゃっていました。
私は、前者の方法のベイトシステムしか知らなかったのですが、調べてみると『アメリカ式ベイトシステム』という(そもそもベイトシステムはアメリカ発祥だったとおもっていました)表現の物が今回のお客様が採用された方法でした。
この方法は設置したボックス周辺の駆除を無差別に行うもので、建物に向かっていようがなかろうが関係なしという内容の物のようです。
シロアリは樹木や生物の死骸など、他の生物では分解できないものを分解する役割を担う存在で、簡単に駆除をしてはいけない存在だと思っていますので、今回のより凶暴な駆除方式はお薦めしません。
今回、このシステムを導入したのは、屋外にある衝立や地面に刺した木杭がシロアリの被害にあったからだそうです。
お客様が持っていた業者が提出した調査資料にある写真を見ると、とても興味深い物が映っていました。
それはコンクリート土間の上にある巨大な蟻道でした。
これは行き先のないシロアリが空中に作る蟻道です。
この写真について業者から説明がありましたか?と確認すると、その写真自体初めて見たようで説明は聞いていないとおっしゃいました。
こんな立派なものは見たことが無かったので、今回お願いして床下に潜ってみました。
このお宅はベタ基礎を採用していますので、土間の真ん中に突然シロアリが湧き出すという事は考えられません。
考えられるとしたらコンクリートに、地面へ続く穴が開いている事ですが、同時に蟻道の材料となるものが(木材)が無ければ、このような立派な蟻道を作る事はありえません。
昔よく聞いた駆除業者の噂、『シロアリを持ち込む』という手口か?実際にその現場を見たことはないあくまでも噂ですが、今回その噂が本当になるのかもと少し興奮したかもしれません。
いざ潜った直観的な感想は、シロアリが発生するような湿気などは感じられない良く乾いた床下でした。
トイレやユニットバスの下も同様に良く乾燥しています。
予め写真からアタリを付けていた場所には何もありませんでしたので、もう一度写真を確認すると、写真の場所は特定できて何かが存在していたらしい痕跡は見られましたが、巨大な蟻道は撤去されてしまっていました。
痕跡は、土間コンクリートにあいた扇子の紙の部分のような扇形の穴でした。
『!』
この形は見たことがあり、当時の基礎工事業者の施工方法が思い出されました。
確かにここから侵入はするかもしれません。
という事は、他に蟻道が存在している事は十分に考えられます。
このお宅は基礎の強度を確保する関係から、全体を3つのブロックに分けてそれぞれに点検口を設置してあります。
他のブロックに潜ってみると、2ヵ所目には何もなく、3カ所目の一番広いブロックにありました。
少し小ぶりですが、空中に延びる蟻道が。
芸術作品だなと思いながら、崩していきますと、
中央に周りのコンクリートとは質感が異なる場所があるのが分かります。
これを突いてみると、
穴が開きました。
コンクリートの穴の左側面に何か食べ残されたものがあります。
この残されたものから、この穴に何があったのかが分かります。
これ、『竹』です。
土間コンクリートの厚みとレベルを確保する為の目印に使ったものです。
竹は腐りづらいので採用していたのです。
まさかシロアリの被害に遭うとは思ってもいませんでした。
この竹は防湿シートを貫き、砕石に打ち込まれていますので、土の中にいたシロアリが、この竹が腐朽する臭いに誘われて、この竹を伝って土間コンクリートを超えて侵入してきたのでしょう。
しかし、その先に餌となるものが無く、空気は乾燥し腐朽していそうな木材は無く、コンクリートは冷たく、空中に蟻道を伸ばしてみるもそれ以上の進行を断念したという所です。
同様な蟻道は複数個所で発見されましたが、いずれも基礎の立ち上がりから離れている事と、床下は十分に乾燥していましたから基礎内部からの建物への被害は認められませんでした。
また、存在した蟻道は、建物の中央付近に集中していました。
この土地は比較的シロアリが多かったのかもしれません。
もし、建物にくっつけて材木を置いてしまったり、花壇を作ったりしていたら建物に被害が及ぶ可能性は大きいので、そういった事はありませんでしたがくれぐれも今後も行わないように伝えておきました。
今回は施工上の問題でシロアリの侵入を許しましたが、実被害は発生しなかったことは幸いでした。
これが床断熱ではなく基礎断熱としたら、大変な事になっていたでしょう。
(*現在の基礎工事では、こういった竹串などは使用せずレーザーレベルにより高さを測定していますので、土間コンクリートを貫く部材は配管材を除けばありません。)
防蟻処理と予防(恐らくホウ酸塩の散布)行われているようですので、今回はこのままという事になりました。
シロアリは生き物ですから、その生態を知れば安全かそうでないかを判断できます。
シロアリにも大切な役割がありますから、過剰に駆除する事には反対です。
兎に角、侵入させない事がお互いの為なのだと思っています。