鳥居を奉納したい。
そんな話が持ち上がり、ネットでいろいろと調べてみました。
鳥居は稲荷鳥居と神明鳥居に分けられますが、実の所どんな素材でも形に細かな指定は無いのだそうです。
それでも、一応、木製で作るときにも石で作る時でも柱と貫の寸法の比とか、笠木の反りとかその辺りには決まりと言うか、先人たちがたどり着いたバランスの良い形になる為の寸法の決め方があります。
柱脚の内法と貫の下端までの寸法は同じで正方形がそこに収まる(実際には柱が内側に倒れるので入らないですが)ようなバランスになっています。
柱の太さもこの正方形の辺の長さに対しての割合が決まっていますから、地面から貫の下端の高さを決めるか、柱脚の内法寸法を決めるとすべてが決まるようになっているのです。
稲荷鳥居も神明鳥居も、全体のバランスのとり方は変わらないのですが、手元の資料によれば、柱が寸胴なのが稲荷鳥居で、神明鳥居は上の方を少し細くするようです。
台輪の有り無し、柱脚の根包は神明鳥居の場合だけにあるようです。
また笠木の上端が山になっているか平らになっているかという違いもあるようです。
ま、大まかにはこんな感じという位で捉えておくことにします。
その一方で、鳥居はその素材、形(鳥居としての大まかな形は決まっている)は奉納する人任せのようで、例えば鉄骨のアングルやフラットバー(平板)で作ったような線の細い鳥居なんてのも実際にあるようです。
とは言っても、境内内にある他の鳥居とのバランスもあるし、そもそも地域の神社でそんなおしゃれな雰囲気でもないので、極端なものは避けたい。
他の鳥居と同じような形で納めたいというご意向もあり、木製で作ろうと。
木製で作るのであれば、先に書いたようなバランスの物が良いなと。
ネット上で製造販売している所を探してみると、ありました。
考えている大きさは、地面から貫下端が2m程度のもの。
そのお値段は、6尺の物しか記載がありませんでしたが、170万円とあります。
『!!』
結構するものです。
この他に送料、建込費用、消費税となると250万円くらいにはなってしまうのでしょうか。
考えどころです。
実際に見積を依頼したわけではないのですが、その位かかってしまうのであれば、作ってみようかと。
こんな機会はきっとこの先ないだろうから、折角だからと。
そういう事で、図面を引いてみます。
内法下端の寸法を決めて、柱の大きさ、貫の太さ、笠木の大きさ、反り等々。
資料にある手順に従い線を引いていきます。
図面を描くのは資料があるので割と簡単です。
CADのお陰で、マウスとキーボードですらすらと描く事が出来ます。
柱は、既存の物に比べて太くなり過ぎたので、既存に倣って細くしてそれに合わせて他の部材の断面も決めていきます。
それでも描いていると、疑問点が出てきますので、実際にある鳥居を見てみようと市内の神社を見て回りました。
鴻巣と言えば、最近盛り返している鴻神社。
本殿を回収し、神楽殿を新築し、ライトアップしたりとさまざまな取り組みをしています。
桜の頃のライトアップは見事ですし、境内にある大きなイチョウが色づく秋の頃も素晴らしいものです。
ここのメインの鳥居は石造りでした。
また、末社の鳥居は硬質塩ビのものでした。
硬質塩ビの場合、笠木の反りは表現されていないので、木製と石製の間位の印象でしょうか。
重厚さとか、美しさと言うのは鳥居の事を考えている事もあり、私には感じられませんでした。
そうして見て回ると神社のメインの鳥居は石造りが多く、石造りは柱、貫、笠木とも円柱で作ってあるものもあれば、木製のデザインを再現したようなものもあります。
しかし、木製ではなくてはと市中から田舎へと範囲を広げて移動しました。
地域の小さめの神社は木製のものが多く、手元にある資料に倣ったような作りになっているものもあれば、地域の大工が見よう見まねで作ったのだろうなという少し抜けた雰囲気のものも多くあります。
市内に、大野神社という昨年末に活動休止にはいった嵐のリーダーのファンがお参りに訪れる神社の鳥居が意外にも木製で、袖柱(設置環境の為片側のみ)のある割と立派なものでした。
直してそれ程年数が経過していないのか、朱色に塗られたその表面には、木製でしたがヒビはありません。
平鉋で削り出したようで、よく見ると完全な円柱ではなく細い面が見えます。
また、笠木の上に瓦が葺いてあり、作ろうとしていた物も屋根を掛けようと思っていたのでとても参考になりました。
手持ちの資料は笠木までなので。
弊社の先代が若い頃に本殿を新築した馬室地区にある愛宕神社には、袖柱のあるケヤキで作られた立派な鳥居がありました。
袖柱が大きいなという印象でしたが、資料によると、その通りのようでした。
こちらは無塗装でした。
木目が見えるので、柱頭と笠木の間に入れる台輪をどう作るかという疑問が解けました。
この2ヵ所の鳥居は大変参考になりました。
次に考えるのは、どう加工するか。
特に笠木の反りと、断面形状。
反りは当然、材を曲げて・・なんて事は出来ませんから、反りまで含めた寸法の材料から切り出す事になります。
島木の断面は逆台形で、笠木は5角形。
笠木は端に向かって太く、反り上がります。
柱の間は平らではなくて、少し垂れています。
また、島木と笠木の2つの部材を重ねて笠木は出来ていますから、上手くくっつくように反り台の鉋を作って仕上げないといけないなと。
柱は当然円柱。
丸太を削るか、ロータリーで加工してもらうか。
今回は稲荷鳥居なので、柱の上下で太さは変えなくても良いみたいだし。
素性の良い丸太を削っても良いし、角材を治具を作って8角形、16角形と電気鉋で丸い断面に近づけ、最後は鉋で仕上げていこうかとか。
割れるだろうなとか。
背割りを入れるのも良いが、それが正解なのかと。
何年も乾燥させた材料が手に入れば良いなとか。
表面のヒビはパテ処理して、朱色で塗ってしまうので良いのではないかとか。
建てる時には、柱と貫を組んで建ててその後に笠木を載せるのだろう。
そうすると柱頭のホゾは、鉛直に加工するのだろうとか。
台輪は単純に貫通させるだけで良いのだろうかとか。
台輪で高さを微調整するのだろうとか。
島木と笠木は柱のホゾで貫くだけで良いのか。
それとも、所々にダボとか入れた方が良いのかとか。
足元は地面に埋め込むが、直接土に入れるのは避けたい。
コンクリートで基礎を作り、鳥居を建て込んだ後にコンクリートを充填し、上端はモルタルで盛り上げて埋めればよいかと。
それとも、水抜けを考えて砕石を少し入れてからコンクリートか。
それだと土中から水が入って来てしまうだろうから、水が入らないように密閉する様に基礎を作るかとか。
既設の鳥居は300mm位の高さの根巻がしてあるからそれに合わせた方が良いだろうとか。
最終的に柱は倒れているので基礎に開けておく穴はどのくらいにするのか。
それを決めるには、柱はどれくらいの長さ埋めるのかとか。
埋めた部分の柱の腐れをなるべく防ぐ為の方法とか。
ネット状には柱脚に銅板を2重に巻いた施工例があったなとか。
そういった事を考えているのは、楽しい時間です。
それでも、最終的には硬質塩ビの鳥居に決定してしまったのですが。
『ガーン』
少し落ち込んでいます。
ここまで考えたのだから、スケールダウンした鳥居を個人的に作ってみようかなとか。
そんな事を考えています。
多分、作らないと思いますが。